糖尿病になるとアルツハイマー型認知症に3倍なりやすい②「脳で作られるインスリンが不足する」

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糖尿痛という病気について

ここで糖尿痛という病気について、説明しておきましょう。

体の中に入った食べ物は、口や胃で消化・分解されて、それぞれの栄養素が腸から吸収されます。このうち、糖は小腸から吸収され、血液中に入ります。血液中の糖は、体の細胞に取り込まれ、ミトコンドリアという細胞内小器官で酸素を使って、ATPというエネルギー源に変えられます。

このとき、細胞に糖を取り込むのを助けてくれるのが、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンです。

糖尿病には、2つの種類があります。1つが、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞の機能が失われ、インスリンが全く作れなくなったり、インスリンがほとんど出ない状態になったりして起こる1型糖尿病です。

もう1つが、肥満や偏った食事などの生活習慣によって、インスリンの効きが悪くなって起こる2型糖尿病です。

さらに、第3の糖尿病という考え方が、数年前からいわれています。アルツハイマー型認知症を「脳の糖尿病」として、第3の糖尿病と見ようというのです。その真偽はともかく、アルツハイマー型認知症と糖尿病に、密接な関連性があるのは確実です。

2つの遺伝子の発現量が低下している

では、なぜ糖尿病がアルツハイマー型認知症の危険因子となるのでしょうか。それが、中別府先生たちの研究テーマでした。6年前から、脳における遺伝子の発現量を測定することで、この関連性を分子生物学の立場から解き
明かす研究を始めました。

幸い九州大学は久山町の協力で88体の献体を受け、大変貴重なデータを得ることができました。献体の前頭葉、側頭葉、海馬、後頭葉という、脳の4つの場所からサンプルを取り、正確な分析が可能なサンプルだけで、全遺伝子の発現量を測定しました。

測定結果を用いて、どんな遺伝子が発現しているか、あるいは、どんな遺伝子の発現量が顕著に変化しているかを調べたのです。

まず、性別、脳血管性認知症、アルツハイマー型認知症の3つで比較すると、性別や脳血管性認知症では、遺伝子の発現量に変化はあまり見られませんでした。

一方、アルツハイマー型認知症では、最も大きな遺伝子発現量の変化が起こっていました。それを部位別に見ると、海馬、側頭葉、前頭葉の順になります。アルツハイマー型認知症の人は、脳の海馬で遺伝子の発現量に大きな変化が起こっていることが、はっきりしたのです。

では、アルツハイマー型認知症の人の海馬で、最も発現量の変化の大きかった遺伝子とはなんでしょうか。

調べると、著しく遺伝子の発現量が低下しているものが多く見つかりました。それを順に挙げれば、1位が肝細胞増殖因子受容体(MET)遺伝子、2位がプロプロテイン変換酵素1(PCSK1)遺伝子です。

METについてはあとでふれるとして、2位のPCSK1遺伝子が作るプロプロテイン変換酵素1について先に取り上げてみましょう。

このプロプロテイン変換酵素1は、不活性型のプロインスリンを切断して、活性型のインスリンを作るのに欠かせない酵素です。この過程には、プロプロテイン変換酵素2(PCSK2)という酵素も必要ですが、PCSK2遺伝子の発現量もアルツハイマー型認知症の人の海馬で、低下していることが確認されました。

つまり、アルツハイマー型認知症のかたは、この2つの遺伝子の発現量が低下しているため、インスリンを作る酵素の量がへり、脳内で作られるインスリンの量が少なくなっていると考えられます。

ちなみに、近年まで、インスリンはもっばら膵臓で作られ、それが血流によって全身に届けられて、各細胞組織で使われているとされてきました。脳で利用されるインスリンも、血流によって脳へ運ばれているとされていたのです。

しかし最近、膵臓だけではなく、脳内でもインスリンが作られていることがわかりました。

脳は幼少時は、体に取り入れた酸素の50%を使っています。大人でも、20%の酸素を消費します。脳が活動するのに、それだけ大量の酸素と糖が必要だということです。

このため、膵臓から送られてくるインスリンだけではなく、脳自身がインスリンを作り、利用していると考えられます。アルツハイマー型認知症になると、2つの遺伝子の発現低下により、脳で作られるインスリンが不足すると考えられます。

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