糖尿病になるとアルツハイマー型認知症に3倍なりやすい③「脳で作られるインスリンが不足する」

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遺伝子の発現量の変化は、糖尿病とは独立して起こっている

アルツハイマー型認知症になると、2つの遺伝子の発現低下により、脳で作られるインスリンが不足すると考えられます。

最も発現量が低下しているのが、肝細胞増殖因子受容体を作るMETという遺伝子です。

最近になって、肝細胞増殖因子受容体は、インスリン受容体と複合体を形成しており、インスリンと肝細胞増殖因子の両方が結合すると、肝臓での糖の利用を強力に促すことが明らかにされました。さらに、METは、小脳の発達にも重要で、神経細胞を守る働きをしていることがわかっています。

脳においてMET遺伝子の発現量が低下し、肝細胞増殖因子受容体がへると、今挙げたさまざまな働きが悪くなり、脳での糖の利用も低下します。かつ、インスリンや肝細胞増殖因子がかかわる、ほかのさまざまな働きも悪くなることになります。

PCSK1、PCSK2に加えてMETといった、インスリンの働きに重要な遺伝子の発現量が低下することで、脳内のインスリンが不足するだけでなく、インスリンの働きそのものも低下すると考えられます。

この結果、脳は糖欠乏に陥り、ミトコンドリアが機能不全になるのでしょう。ミトコンドリアは、糖と酸素から細胞のエネルギー(ATP)を生み出していますが、インスリン不足により、ミトコンドリアが本来の機能を果たせなくなるのです。

特に脳内では、神経細胞の神経突起にミトコンドリアが多く存在します。神経突起のミトコンドリアが機能不全に陥れば、神経細胞の働き自体が低下し、神経細胞どうしの情報伝達を行うシナプスの機能も障害されることになります。

この際、機能不全に陥ったミトコンドリアからは同時に多量の活性酸素が生成されるため、酸化ストレスも増大します。これらが相まって、アルツハイマー型認知症の症状を進行・悪化させると考えられるのです。

ただし、ここで留意しておかなければならないのは、糖尿病だから、METなどの遺伝子発現が低下したわけではない点です。お話ししてきた遺伝子の発現量の変化は、糖尿病とは独立して起こっています。

認知症の進行抑制には糖尿病の予防・改善を

中別府先生の今回の研究ではっきりしたのは、アルツハイマー型認知症になると、脳内でインスリンが作られなくなるなど、脳内が糖尿病と似た状態に陥ることです。

そしてそれが、アルツハイマー型認知症の症状を進行させる可能性が明らかになりました。

糖尿病が原因でアルツハイマーが起こるわけではありませんが、アルツハイマー型認知症になれば、PCSK1などの遺伝子発現が低下することで、糖尿病になりやすくなることは、アルツハイマーモデルマウスを用いた、中別府先生たちの最近の研究からわかってきました。

また、アルツハイマー型認知症になり、症状が進行しつつあるとき、糖尿病を併せて発症すると、当然、脳内の糖尿病状態に拍車がかかり、認知症の病状が進むことが懸念されます。

その意味では、認知症の進行を抑制するためにも、糖尿病の予防・改善が大切になります。

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