性差も年齢差も考慮されていない基準値で必要のない人が薬を飲まされている

新しい診断基準が大きな波紋を呼んだ

2015年の4月、日本人間ドック学会と健康保険組合連合会が連名で、血圧やコレステロールなどの新しい診断基準を発表しました。

この新基準値は、2013年に人間ドックを受診した150万人のデータの中から、一定の条件を満たしている健康な人を選び出してまとめたもの。その数値が、従来の基準値に比べてかなり緩めだったため、大きな波紋を呼びました。

発表直後、日本高血圧学会と日本動脈硬化学会が相次いで反諭し、5月27日には日本医師会が日本人間ドック学会に注意喚起を促しました。それを受けて、日本人間ドック学会は、まだ途中経過であるとコメントし、事実上新基準を撤回しました。

しかし、この新基準値には、評価できる点がいくつかあります。一つは、その一部が男女別に算出されていること。もう一つは、数値の高さの妥当性です。

新基準値は欧米の適正基準値に一致!

まず、血圧です。現状の血圧の基準値は、最大血圧が129mmHg以下、最小血圧が84mmHg以下であるのに対し、新基準はそれぞれ88~147mmHg、51~9mmHgです。

人間ドックの受診者は、40代、50代の人が多いことを考えると、最大血圧の147mmHgは、米国の2013年k基準値の60歳で150mmHg、昔から使われてきた年齢+90mmHgにもほぼ合致し、きわめて科学的な数値です。

コレステロールについても同様のことがいえます。悪玉とされているLDLコレステロール(以下、LDL)の基準値は、現状は30~119mg/dl。それに対して、新基準値は、男性は72~178mg/dl、女性は年代別に分かれており、いちばん高い年齢層の65~80歳で84~190mg/dlです。

この190mg/dlという数値は、米国の2013年基準値や、あとで紹介する、男女別・年齢別基準範囲(いわゆる正常範囲)と、ほぼ同じです。

日本のLDLの現状基準値は、心筋梗塞の死亡率が日本の3倍もある米国よりもかなり低く、多くの人がコレステロール低下薬の投与対象になっています。

悪玉コレステロールは低いほうが体に悪い!

これまでのさまざまな調査で、LDLが高いほど、長生きすることがわかっています。

東海大学が行った神奈川県伊勢原市の調査でも、男性はLDLが100mg/dl未満だと死亡率が高くなります。LDLは、低いほうが体に悪いのです。

コレステロールは、体に必須の物質で、細胞膜や神経細胞、ホルモン、ビタミンD、胆汁などの原料になります。

LDLは肝臓でつくられたコレステロールを全身の細胞に送って組織を再生させ、HDLコレステロール(以下、HDL)は壊れた体細胞のスクラップを回収して肝臓に運び、リサイクルします。

LDLが低いということは、体のどこかに炎症性疾患(ガンや呼吸器疾患など)があって体の細胞が破壊されているのに、それを再生させるLDLが足りないということです。

そのため、男性の死亡率が高くなるのです。また、炎症があるとHDLが高くなるため、男性でHDLが高くLDLが低いと、死亡率が高くなります。

高脂血症は作られた病気

一方、女性にはそういう傾向は見られません。LDLが高いと死亡率が低いのは男性と同じですが、HDLも高いほど死亡率が低下します。女性はコレステロールを気にする必要はなく、欧米では女性にコレステロール低下薬を投与していません。

コレステロールの数値を気にしなければならないのは、遺伝性の強い、家族性高コレステロール血症の一部だけです。ただし、この病気でも、心筋梗塞を起こす原因はコレステロールではないことがわかっています。

中性脂肪値は、1000mg/dlまでは病気と関係ありません。1000mg/dlを超えると急性膵炎になる危険性がありますが、日本人で1000を超える人は0・1%以下です。

以上のことから、高脂血症(脂質異常症)は根拠のない、作られた病気といえます。東海大学名誉教授の大櫛陽一先生の研究では、コレステロールや中性脂肪の高い人のほうが、脳卒中の発症が少なく、入院死亡率も低いことがわかっています。

性差、年齢差を考慮するペき!

人間ドック学会が発表した新基準の問題点は、基本的に年齢が考慮されていないことと、ベースになる人数が一定ではなく、項目によって非常に少ないものがあることです。

この調査では、150万人という膨大なデータの中から、少しでも異常のある人を除いて、健康な人だけをピックアップしています。結果、最終的に使ったのは1万~1万5000人で、それをさらに項目別・年代別に分けると、2000人くらいになるものもありました。

基準値を策定するときに大事なことは、対象者数の多いことと、性別、年代別で分けることです。

必要のない人が薬を飲まされていた

人間の体は、男女差と年齢差があります。それを考慮しないで基準値を作ると、若い人の早期異常を見逃し、健常な高齢者を病人扱いしてしまいます。

大櫛先生は2006年に、日本総合健診医学会に所属する70万人の健診結果を解析して、新しい健康診断の基準範囲を作成しました。20代から70代までの幅広い年齢層を、男女別に5歳刻みで設定したものです。

この基準範囲を作成したあと、10年かけて追跡調査を行ったところ、やはり基準値範囲内の人は死亡率が低く、範囲外の人は高いことがわかりました。さらに、コレステロールが高いほうが長生きし、低いと感染症やガンのリスクがふえることも確認できました。

これまでの診断基準は、性差も年齢差も考慮されなかったため、必要のない人が薬を飲まされ、副作用に苦しんできました。また、医療費も無駄遣いしてきました。その悪い連鎖を断ち切るためには、何が真実かを見極める視線が、一人ひとりに必要です。

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