ふえている女性高齢者のうつ。60~70代のがんばり世代に多い

ふえている女性高齢者のうつ。60~70代のがんばり世代に多い

核家族化、少子高齢化社会の波が押し寄せ、その影響も受けてか、近年、高齢者のうつ病がふえてきました。そ
のなかでも、60~70代の女性の患者さんが目立っています。

この世代は、高度経済成長時代に結婚し、専業主婦として子育てと夫の世話に身を捧げ、さらに両方の両親の介
護も担ってきたような人たちです。

馬場さん(仮名)もそんな女性の一人でした。山形県出身、県立高校を卒業し地元のデパートに就職しましたが、24歳のときに見合い結婚し、専業主婦に。

すぐに夫が東京勤務となり、新婚生活は都内の社宅で始まりました。折しも日本は東京オリンピックが開催され、新幹線が開通し、大阪万博も開幕。好景気に沸き、活気に満ちあふれていました。

夫の仕事は順調、2人の娘にも恵まれ、忙しくも幸せな家庭生活でした。コツコツとためたお金は子どもの教育費に消えていきましたが、娘たちは無事大学を卒業し、就職、結婚し、家庭をもちました。それぞれに孫が2人ずつ誕生。共働きの娘たちのために、今度は孫の世話と、休む間もなく忙しい日々がつづきました。

きっかけは生活の変化、身体的不調の訴えが多くなる

やがて、年のせいか、だんだんとからだの疲れを感じるようになり、食欲も落ちてきました。ちょうどそのころ夫が定年退職を迎え、毎日、夫が家にいるという生活に変わりました。

最初に衝撃を受けたのは、夫から「お昼ごはんは?」といわれたときでした。いつも朝の残り物で簡単に済ませてきたので、「お昼ごはん」など結婚後考えたことがなかったのです。夕方、買い物に出かけようとすると「どこに行くんだ」といわれたことも驚きでした。少し帰りが遅いと「随分遅かったね。何していたの?」といわれたときには、監視されているような気がして胸が苦しくなったそうです。

体調はますます悪化し、食欲がないだけでなく胃痛、頭痛、倦怠(けんたい)感、不眠などが現われ、かかりつけの内科医に頻繁に通うようになりました。検査ではとくに異常はなく、胃薬、頭痛薬、睡眠薬、ビタミン剤、漢方薬などをもらって服用していました。

でも、いっこうによくなりません。市民病院の消化器内科にも2度入院し、内視鏡検査や全身のMRI検査を受けましたが異常はありませんでした。このときの馬場さんの病名は、「神経性胃炎、逆流性食道炎、過敏性腸
症候群、めまい、頭痛、不眠症、脂肪肝、発作性上室性頻拍、不定愁訴、不安」とあったそうです。

さらに別の消化器内科を受診し、初めて「これは神経的なものかもしれない」といわれ、精神科専門のクリニックを紹介されたというわけです。

長引くと「仮性認知症」も出現。うつ病との識別が重要になる

受診はご主人と一緒でした。

「胃がつらくて、もう3年も苦しんでいます。10kgくらい痩せました。からだも疲れていて、ここまで来るのがやっとでした。横になりたくても、苦しくて横になれず、じっとしていられない感じです。夜も眠れず、少し眠ってもすぐに目が覚めてトイレに行ったりします。テレビも面白くない、何もする気がない、家事もできません。ごはんも何を作ったらいいのか考えられないのです。孫の面倒もムリと娘に伝えています。地獄のようなつらさで、死んだら楽になるかなと考えるときもあります」と訴えるように話す馬場さん。

ご主人からは、「からだの不調が治らず本当に困っています。料理ができなくなり、本も読めないようです。日時もわからない様子で、認知症になってしまったのでしょうか?」と聞かれました。

クリニックの医師は2人の話から、馬場さんは典型的な女性高齢者の「不安焦燥(しょうそう)型うつ病」と診断しました。身体的不定愁訴が多く、不安を伴いやすいのは、女性高齢者のうつ病の特徴です。

家族のためにがんばりつづけ、エネルギー不足に陥ってしまったようでした。したがって、ご主人が心配されている「認知症」でもありません。長期間、苦しまれていたので脳が疲弊し、思考や記憶、認知機能の低下など「認知症」に似た症状が出ただけで、これはうつ病による「仮性認知症」というものです。

識別法として、精神科医は年齢を尋ねるようにしています。仮性認知症の人は間違えませんが、認知症の人は、記憶が新しい部分から消えていくため実年齢より若く答えることが多いのです。もちろん馬場さんは、「73歳です」と正しく即答されました。

クリニックの医師は治療として、不安焦燥型うつ病に効果的な抗うつ薬・アミトリプチリンを処方しました。そして、本人には家事は必要最低限にして手を抜くように、ご主人にはできるだけ手伝ってあげるよう、話しました。

すると、1週間ほどで不快な身体症状は落ち着き、2週間めには食欲が出てきました。1カ月後にはテレビが見られるようになり、3カ月めからは料理も家事もできるようになりました。母の日には2人の娘さん一家も来て、久しぶりにお祝い会ができたそうです。明るく話し好きな馬場さんが戻ってきて、ご主人もホッとされていました。

高齢者の場合、身体的不調を訴えると治療のための病院へ連れていかれ、やる気や元気がないと認知症かもと疑われ、うつ病は見逃されがちです。馬場さんも寄り道して、診断に3年もかかりました。でも、治療開始が遅れるほど認知症との識別が難しくなりますし、認知症へ移行するリスクも高まります。

「年だから仕方ない」と片付けずに、早期発見・治療で”笑顔寿命”を延ばしたいものです。

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