更年期はうつを合併しやすい

更年期の不定愁訴とうつの症状は似ている

朝起きるのがつらく、会社に行きたくない…。広田さん(仮名)は、そんな朝がつづいていました。夜中に何度も目が覚めて熟睡できず、倦怠感や疲労感にも悩んでいました。

体調不良の原因は、仕事が忙しいということもありましたが、51歳という年齢から、これが更年期障害なんだろうと思っていたそうです。月経も半年ほどなく、ホットフラッシュ (顔のほてり、発汗)やイライラ感などの自覚症状があったからです。

ただその日は、通勤電車内でめまいや動悸、息苦しさを感じ、いつもと違う感じでした。出勤したものの、気分がさらに悪くなり、珍しく、午前中は会社の健康管理室で休むことにしました。保健師は不整脈、高血圧、微熱を指摘し、やさしく体調を気遣ってくれました。

久々に耳にした温かい言葉に、思わず涙があふれ、広田さんは堰(せき)をきったように、つらい仕事の状況を話しだしました。保健師は「それは大変でしたね。おそらくあなたの体調不良は、がんばりからきた精神的な疲れだと思いますよ」と話し、心療内科の受診をすすめたのでした。

女牲の管理職は一人で問題を抱え、がんばりすぎる傾向が

広田さんは、1カ月ほど前に、ある会社の地方支社から本社へ、総務部経理課長として赴任したばかりでした。それまでの実直な仕事ぶりと、責任感が強く、他者への配慮に長けた性格が評価されての本社への栄転でした。

上司は自分より随分と年下の42歳の男性、エリート社員です。部下は5名で、全員女性。20代から、自分と同じくらいの50代の人までいて、黙々と仕事をしていました。彼女らのためにも、自分が多く仕事をしてがんばろうと思ったそうです。

みんなに挨拶をすませて課長席に着くと、最新のパソコンが置かれていました。さあ、仕事開始と気合をいれて、パソコンを開くと、たくさんの経理業務がファイルに収められていて、わからないことばかり。

部下に聞くと、「そこのマニュアルに書いてありますから読んでください」という素っ気ない返事で、自分は歓迎されていないのかと落ち込んだりしました。

仕方なく、膨大なマニュアルを読みながら画面と対峙(たいじ)していたら、あっという間に夕方になり、部下たちは、それぞれの決算書を私の「未決」のケースに入れ退社していきました。それらに目を通し、課長印を押し、報告書を仕上げたときは深夜近くになっていて、帰宅は最終電車でした。

広田さんの初日はこうして終わりました。

しかし、翌日も、次の日も同じような状況がつづき、部下たちとの距離も縮まらないまま、孤独感・疎外感を抱
きながらの日々でした。それでも、とにかく上司のため、部下のためにがんばろうと自分にいい聞かせ、とくに部下には、少しでも仕事がしやすいようにと配慮しました。

ミスがあっても、叱るのではなく、赤ペンで指摘し、資料を揃え、そっと返しました。その分、自分の仕事量はどんどんふえていったのでした。

更年期はうつになりやすい症状が強ければうつも疑って

横浜上町クリニックの山田和夫先生は、広田さんの話を聞き、典型的な熱中型・努力型の執着気質によるうつ病だと診断しました。責任感が強くて、気配りに優れた、がんばり屋さんの中間管理職によくみられます。

症状としては、精神運動抑制(脳機能の低下、集中力・判断力の低下)や全身倦怠感があげられ、とくに特徴的な症状の日内変動(午前中がいちばん悪く、夕方になると軽減する)がみられました。

興味や関心の減退、意欲低下、入眠障害、中途覚醒、食欲不振、抑うつ気分、不安・焦燥感もありました。

ただご本人は、これらの不調は更年期の不定愁訴の一種で、そのうち治まるものと思い込んでいて、うつ病の診断に驚いていました。

女性の場合、更年期(45~55歳ごろ)は、仕事だけでなく、家庭でもさまざまなストレスを抱えやすい時期にあたり、実はとてもうつ病になりやすいのです。更年期障害といわれる人の半数はうつ病を合併しているともいわれています。両者の症状は似ていますから、うつ病に気づかないことも多く、注意が必要だと山田先生は言います。

更年期症状に強い不安感を伴ったり、なかなか改善しないときは、うつ病も視野に入れ、早めに専門医に相談されるのがよいそうです。

広田さんへの治療は、うつ症状の改善を中心に抗うつ薬(過重労働の疲れを取りやすいタイプの薬)、睡眠導入剤、食欲改善薬を処方し、加えて更年期障害に効果的な漢方薬を投与し、1カ月の休養・加療が必要という診断書を書きました。

この年代のうつ病は責任感の強い人に多く、倒れるまで仕事をしがちです。そうならないために、ドクターストップとして診断書を書くわけです。その際、過重労働が原因の場合は、それを具体的に付記することにしています。そして、復職後の職場環境を改善してもらうようにしています。

広田さんは、その後、順調に回復し、不眠や不安感などは改善されました。更年期の症状も対処できているとのことで、まもなく復職の予定です。

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