健診で「胃下垂」を指摘された。治療しなくても大丈夫か?

Q.54歳、男性。胃下垂のためか、食があまり進まないのに食後すぐに胃が張り、苦しくなるほどの膨満感があります。健康診断では「胃下垂だが心配ない」といわれたので治療はしていませんが、放置しても問題ありませんか?胃の位置を上げるなどの治療をすれば、食後の不快症状が改善できるのではと思うのですが…。(宮城県 N)

胃下垂と食後の膨満感は関係がなく、治療は不要。症状より「機能性ディスペプシア」の可能性が高い

A.胃下垂とは、胃が骨盤内まで下がっている状態をいいます。胃が垂れ下がっているので胃に緊張感がないように見えることから、「胃アトニー(胃無緊張)」という概念とペアのように使われることも多かったようです。

「胃が垂れ下がっていて緊張がないので胃の動きが悪いはずだ。だから摂取した食べ物が胃から出ていきにくいに違いない」との根拠のない想像から、胃もたれや膨満感の原因と説明されてきました。

ひどい場合には、胃を切除する手術が行われることもありました。今から数十年前のことです。しかし今では、胃下垂という用語が使われることはほとんどなくなりました。

Ⅹ線で胃の形を見る検査が行われなくなったことがその理由の一つですが、なにより胃が骨盤内に垂れ下がっていること(胃の形)と胃の働きは関連しないことがわかってきたのが大きな理由と思います。

約30年にわたる膨大な胃の症状に関する研究の結果、もたれや膨満感などの症状は、胃の運動や知覚(感じ方)など胃の働きの異常によるものであることがわかってきたのです。そして、胃下垂自体は、胃の働きの異常とは関連しないこともわかっています。

すなわち、胃下垂は食後の膨満感の原因ではないのです。健診でとくに心配ないといわれたのはこのためでしょう。ですから、胃の形や位置を変える必要はありませんし、胃下垂を治療する必要もありません。

現在は、検査で胃に明らかな異常がないのに、もたれや痛みの症状を訴える疾患を「機能性ディスペプシア」と呼んでいます。あまりなじみのない病名ですが、胃の運動や知覚の不調が原因とされている疾患です。食後の胃の不快症状は機能性ディスペプシアの特徴ですので、ご相談者はこの病気の可能性が高いと思われます。

機能性ディスペプシアはストレスの影響を受けやすい病気ですが、これはストレスが自律神経の働きを乱すことによるとされています。規則正しい食事、適度な運動、十分な休息・睡眠をとるなどの生活習慣の改善は自律神経を安定させる作用があり、症状の改善効果があると思われます。

これらを行っても症状が改善しない場合には、消化器内科などの医療機関を受診されることをおすすめします。

回答:兵庫医科大学内科学消化管科主任教授 三輪洋人先生

スポンサーリンク


  • このエントリーをはてなブックマークに追加